ふいてもふいても、涙が出る。
まき小屋の陰に隠れて、少年は声を出さずに泣き続けた。


身重の女性が運ばれてきた。
簡単な畑仕事の最中に、突然腹が痛みはじめて気を失ったと彼女の夫は訴えた。
師であるダーンは魔術師であり、村の村医も兼ねている。
彼はその助手を務めている。
もう一人同じく魔術士見習の黒髪の少年は、長老の使いに出ておりここにはいない。
二人はすぐに治療の準備を始めた。
ぐずぐずはしていられない。
女性の様子が尋常でない事は、彼にも見て取れた。

女性が運び込まれて半刻後、家中に赤子の声が響いた。
やや小さいが、とても赤くてくしゃくしゃで、びっくりするほど大きな声で泣く子だった。
男の子だと彼が告げると、その母親は苦しそうに、けれどとても嬉しそうに微笑んだ。
少年もつられて微笑する。
そしてやはりその半刻後。
彼女は息子に何事か語りかけ、そして息を引き取った。


「助けられると思ったんだ」
いつもみたいに。
何度も何度も繰り返す。
白魔道士は医師を兼任することが多い。
人々を力付け、その手助けに使われる、正の力を司るゆえだと言う。
生にきわめて近い存在。
だがそれは、同時に死の最も近くにいることなのだと、
少年はこの時悟ったのだった。




小さな涙
2002.10.6


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