エルケスは笑っている。
随分機嫌が良いらしい。
「ほら。」
指差す先には一体の案山子。
黄色い毛糸の髪に、あの青の上っ張りは俺が昔着てたやつだな、とファルスーンは考えた。
古ぼけて、案山子だか枯れ木だかわからないぐらいだったのが、今じゃ立派なものだ。
お粗末ながら、帽子の下に顔もきちんとついている。
木の枝の鼻と口、そしてきらきらひかる二つの目玉。
その色は、空の色だ。

「ビー玉を入れてやったんだ。」
キレイだろ、そういってエルケスはもう一度笑った。


次の週、畑から戻ったエルケスは少し落ち込んだ風だった。
どうしたのかと尋ねると、案山子が、と言った。
青い目をぴかぴかさせていた案山子。
「鳥に持ってかれたんだよ、目玉を」
そういえば、鳥は光り物が好きだと聞いたことがある。
「でもいいや」
今度は紅いのをつけてみる。
そう言ってエルケスは、やっぱり笑った。
そのてのひらには早速、紅い玉が握られている。


久々に畑にいってみれば、相変わらず案山子はそこに立っていた。
やや色が落ちた黄色い毛糸の髪に、青い上着。
顔もきちんとついている。
その目玉は黄色いビー玉で出来ていて、
相変わらずぴかぴかと光っていた。




「案山子」
2001.9.16


back  トップへ  next